「メキシカン・スーツケース」
新宿のシネマカリテで、ドキュメンタリー映画「メキシカン・スーツケース」を見た。
またしても最終日になってしまったが、21:00上映開始のレイトショーにしては なかなか多くの観客がいるではないか。
2007年、ロバート・キャパの弟 コーネルが70年近いあいだ行方を捜していた4,500枚の写真のネガフィルムがメキシコで見つかった。キャパとゲルダ・タロー、デヴィッド・シーモアが撮ったスペイン内戦の写真だった。この映画の大部分は、ネガと同じように 内戦後にスペインからメキシコへ亡命した人たちのインタビューと写真で構成され、3人の写真家が命を賭けてどのようにして戦場で写真を撮ったかを伝えることからはじめる。とりわけ、おそらく初めての女性戦場写真家ゲルダは、文字通り命とひきかえに撮った写真だった。共和国軍の戦車の暴走に巻き込まれて死んだゲルダの、病院のベッドで最期をむかえた様子を見て、僕はなぜかすこし安堵した。キャタピラに踏みにじられたところなど想像もしたくなかったのだ。
インタビューは、フィルムがメキシコにたどり着くまでの足跡を追いながら内戦のあとに国境のピレネー山脈を越えた共和国派のひとびとの日々を掘り起こしてゆく。インタビューに応える人たちはその過酷な時を生き抜いて、いまメキシコにいる。
沖縄でおびただしい砲撃と死を身をもって知った人たちや、広島・長崎で友人や家族を殺されたひとびとがそうであったように、スペイン内戦を経験してメキシコに渡った人たちは、残された時間も少なくなった今日まで、内戦についてほとんど語ることがなかったという。それだけに、カメラに向かって打ち明ける つらい過去とモノクロの写真は、ぼくたちを内戦のスペインの荒れ果てた街に連れて行く力をもっている。
- 2013.09.27 Friday
- 越境
- 07:12
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- by 玉井一匡