ベアテ・ゴードンさんと ねじれのチカラ

0
    Click to NY Times
     昨年末の選挙の勝者は、今年の参議院選挙で過半数を取って国会のねじれ現象をなくし憲法を変えたいと思っているにちがいない。
     それが気になるせいか、「ねじれ現象」のことを英語ではなんというのか知りたくなった。wikipediaで日本語の項目を開き、そこから別の言語を選ぶと、奥行きのある辞書としてとても役に立つのだが「ねじれ現象」を開いても、そこには外国語の項目がない。この概念は日本に独特なのだろうかと思いつつ内容を読むと、同じような情況はアメリカやフランスなどにもあるのだが、それぞれに制度の違いがあるため単純に別の外国語に置き換えるわけにはゆかないのだろう。
     
     「江戸の崖・東京の崖」の著者である芳賀啓さんのブログ「Collegio」に、「ベアテさん」というタイトルでベアテ・ゴードンさんが亡くなったこと、日本のために彼女が果たしたことが書かれた。少女時代を日本で過ごし日本の女性の立場を自身で目にしていたベアテさんは、GHQのつくった日本国憲法の草案に関わり、男女同権をうたった第24条などを起草した。ニューヨークタイムズのweb版の記事ではベアテさんとその死について2ページをつかっているから、日本のメディアよりもよほど丁寧に報じている。
     芳賀さんは、ベアテさんと会った自民党議員・扇千景が、相手を揶揄するもの言いをしたのに対して、胸のすく切り返しを見せた逸話を紹介している。
     また、芳賀さん自身のコメントにはベアテさんと孫たちが皇居に招かれて美智子皇后と語り合ったことがあるというエピソードも紹介し・・・近年の「傾向」にもっとも危機感を抱いているのは、江戸城に住んでいる人かもしれないなと思っている・・・とある。
     ぼくも、だいぶ前から同じように感じていた。日本を取り戻すだの防衛軍だのと言い、はては徴兵制などを唱える政治家は、制度としての天皇制を強化したがる。しかし、明仁天皇自身の平和についての考え方は、戦前の天皇制のありかたに批判的で、むしろわれわれに近いことが会見や園遊会での発言から読みとることができる。原発についてもそうだろう。

     東電の役員たちが避難所の体育館を訪れたとき、ビニールシートの上に直かに座っている被害者の前で、自分は立ったまま頭を少し下げただけで済ました文字通りの上から目線は彼らの思いを表すものだったが、天皇夫妻は床に膝をつき被害者と会話される。原発を停止するどころか、新しい原発の計画すら考えている現政府が東電の役員たちの側に立つことは疑うべくもないが、むしろ天皇夫妻は官邸前デモに足をはこぶ人々の思いに近いだろう。

     もし天皇が「日本は世界でも稀な地震の多い国であるのだから、原発をやめてみんなでもう一度出直そうではありませんか」と所感を述べられたら、政府がどう言うか興味深いところだが、彼らは自分たちが変えたくて仕方ないはずの憲法をたてにとって、天皇が政治に関与するのは憲法第4条に違反すると言うだろう。

     美智子皇后がベアテさんと孫たちを招いて功をねぎらわれたのは男女同権を支持するからであり、被害者あるいは被災者に可能な限り近づいて見舞いの言葉をかけられるのは、国民の「健康で文化的な生活」を願うからだろうし、原発について直接的な発言をしないのは憲法の天皇の地位の規定から踏み出すまいという意志によるものだろう。夫妻の、この憲法を護ろうとする意志は固いにちがいない。

     これもまた、大きなねじれ現象だ。ゼンマイやゴム動力を動かすには、まずねじることから始めるではないか。地殻の歪みがあの地震を引き起こすように、このねじれは、この国をまともなかたちに動かす力に変わるだろう。

    ■関連リンク
    /NYタイムズWEB版
    「映画 日本国憲法」/MyPlace:チラシの裏面の写真をクリックすると、ベアテさんの写真とインタビューの抜粋が拡大される
    ベアテ・シロタ・ゴードン/ウィキペディア

    コメント
    九条で平和が守れるなら何故押し付けたアメリカが率先してそれを持たぬのか。各国持つどころか軍備拡張に走るのはなぜなのか。
    憲法護持を言うこと自体が、天皇の政治関与を禁じる憲法に抵触するのではないでしょうか。
    安倍政権と自民党に真っ向から刃向かう皇后発言も皮肉なことに憲法違反です。(露骨にはおっしゃいませんが、ゴードンへの賛辞など間接的に発信していらっしゃいますね)

    戦後70年間の日本の平和は平和憲法ではなくアメリカの核の傘の同活力でかろうじて守られました。
    でもいざというときは、アメリカも守ってはくれません。
    • まかろん
    • 2015/02/16 4:10 PM
    光代さん、メントありがとうございます。
    そして、返信コメント遅くてごめんなさい。
     都知事は言うまでもなく、歴代の首相の顔を思い浮かべてみると、どの人よりも明仁天皇の方が人として信頼に足ると、ぼくも思います。地位ゆえでなく、夫妻の人としてのありかたゆえにぼくは敬愛しています。どんな力をもあつめて、原発を止めさせることが日本の再出発に必要だと思います。
    がんばりましょう。
    天皇について 私も同じ印象を持っていました。
    戦後の民主教育を本気で生きようとしている人、自分に許された範囲の中で 確かに守るべき伝統と変化していくべき事を できる限り誠実に生きようとしている人たちに思えます。
    天皇制というものが利用される事の無いよう不安を抱いているのはむしろ彼らの方でしょう。

    現実は**だから・・・・・と 憲法を変えたがる人たちに どのような言葉で諦めずに語り続けるかについて、ずっと考えています。
    コメントする








       
    この記事のトラックバックURL
    トラックバック

    calendar

    S M T W T F S
         12
    3456789
    10111213141516
    17181920212223
    24252627282930
    31      
    << March 2024 >>

    selected entries

    categories

    archives

    recent comment

    recent trackback

    recommend

    links

    profile

    search this site.

    others

    mobile

    qrcode

    powered

    無料ブログ作成サービス JUGEM