ETV特集「長すぎた入院 精神医療・知られざる実態」

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     先週末の夜おそく、もう寝ようとしていたとき、自宅のハードディスクに「ETV特集・長すぎた入院」という番組が残されているのに気づいた。

     冒頭だけのつもりで見はじめたが やめられなくなって 1時間のドキュメンタリーを最後まで見てしまった。

    ぼくたちの国でまたひとつ、かくも理不尽なことが行われていることに対する腹立たしさが、 眠気をすっかり吹き飛ばした。

     

     冒頭から登場する主人公 「時男さん」は、39年間も精神病院に入院させられて 退院することができなかった。歩くことも話すことも考えることも、ひとの気持ちを推し量り思いやることもできるおだやかな人が、意志に反して病院から出してもらえなかった。

     

     しかし、そこは 福島第一原発の近くに5つあった精神病院のひとつだった。

     原発から5km圏内にあったために、患者たちは病院を出て避難することになった。転院先の病院で診察をうけたところ、時男さんのいた病院の患者40人のうち、2人を除き 他の患者は入院の必要がない、むしろ家庭に帰って生活する方がいいのだと医師が説明する。

     

     長いあいだ 願っていた退院が、思いがけない事故によって実現した。時男さんは、「オレの、これまでの39年をどうしてくれるんだ」と言ってかつて入院させられていた病院の医師の胸ぐらをつかんで殴り飛ばすくらいの権利はあるがそんなことはしない。

     彼は、ひとびとの責任を追及するよりも、40年ぶりに戻った自由を 胸に深く吸い込み、自動販売機で切符を買うことや、ATMをつかうこと カラオケで歌うことによって それを実感するのだが、それでも退院できなかった理由を探そうとする。

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     原発がつくられるのは、都市から離れた土地、産業の少ない土地、美しい海に面する土地だ。 その近くに精神病院がつくられたのは、そこが 住む人の少ない土地であるからだ。両者がたがいに近く作られたのは必然だった。

     

     その原発が事故を起こし 国土と人々の生活を台無しにしたおかげで、不当に入院させられていた患者が解放されることになったのだから、なんと皮肉な巡り合わせだろう。
     

      日本の精神障害者の病床数は、世界の20%を占めているという・・・驚くべき多さである、しかし それは、日本に重症の患者が多いからではない。

     1951年、国の年間予算が7000億円だったころ、社会に精神障害者がいるために 年間1000億円の損失が生じているとして、国は精神障害の入院患者数を増やす制度改革を行った・・・患者数に応じて決められる医師・看護師の数を大幅に緩和したのだという。経済効率のために、患者の支えを少なくしたのだ。(Wikipediaで調べると 1951年という年は朝鮮戦争の最中で、マッカーサーが解任されるなど 、まだ戦後色が濃い

     その結果、世界の人口の2%弱にすぎない日本の精神病院の病床数が、じつに世界の20%を占めるということになった。こういう異常は、1950年代に国家の政策によって意図的に導かれたものなのだ。

     

     世界の潮流が精神障害の患者を監禁しない方向に向かったのをあとから追いかけて開放的な施設を建設しようとすると、 近隣住民の反対に会った。患者の家族たちも自宅にひきとるより、病院に預けておきたがる。

    時男さんたちが自由を獲得したのは幸運な例外で、いまもたくさんの人たちが監禁状態にある。

     

     問題は、国家の政策とそれを実現する制度によってはじまった、それによって利益を受ける人々、家族の都合、社会の保身と他者に対する冷淡が それを残し続けてきた・・・ぼくたち自身の 精神障害に対する見方をはじめ 変わらなければならないことが沢山あるのだ。 時男さんたちの力によって それらを変えることができるかもしれない。もしそれができれば、彼の39年はけっして失われたわけではなかったということになる。

     

     できるだけ多くの人が見るべき、すぐれたドキュメンタリーだと思うが、いまのところ まだ再放送の予定はないようだ。

     

    ■関連リンク

    双葉病院の様子(ストリートビュー):時男さんのいた病院は番組にも登場するので、映像に残された病院名やナレーションをたよりにGoogleマップで探した。あたりは立入禁止になっているので、いまもそのまま残されていることがストリートビューで見られる。

    双葉病院の位置を知る地図(Googleマップ):地図を見ると、福島原発のすぐそばであることが実感される。精神病院なら、原発の近くでもいいだろうという考えが浮かんだ理由は、容易に想像できる。それは、ぼく自身も同じような感覚を持っているからかもしれない。それが、いまも多くの人が退院できずにいることと関係があるだろう。


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