水と油と神楽坂

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     先日、外出からもどってくると 机の上にコピーが1枚載っていた。

    神楽坂 清水流るゝ ■かな 紅葉」と、毛筆で一句書かれている。

     この字は なんて読むんだろうと、ギンレイホールの加藤さんが置いていらしたという。

     

     ぼくは こんな漢字を見たこともないし、そもそも この崩し文字を読み取ることがあやしい。

     MacBookの文字パレットを開いて「部首検索」で探すと、出てきたのは「膩」という漢字だった。

    音読みは「じ」訓読みは「あぶら」。

     

     神楽坂 清水流るる あぶらかな

     

     ということになるが、なぜ「あぶら」なのか?

    「『膩』という字らしいが、澄んだ水に油が浮いて虹が流れてゆくということでしょうか」と、加藤さんにショートメールを送った。 

     数日後、電話がかかってきた。

     「神楽坂に詳しい人にあれを訊いてみました。 たしかに尾崎紅葉は神楽坂に住んでいたことはあるけれど、神楽坂に清水はなかったはずだ。神楽坂だから あぶらというのは、芸者の化粧の油だろうと・・・」

     

     なるほど、そうに違いない。

    油というのは鬢付け油のことだろうか 

     「神楽坂に芸者がやっているバーがひとつあるんです。そこのママが、私に芸者の写真でつくったカレンダーをくれてね。それが紙袋に入れてあって、あれはその袋のコピーなのだ。近いうちにカレンダーを持っていきますよ」

     持っていくと言ったって、もちろん あげるよという訳じゃあなくて、言ってみれば ちょっと自慢したいのだろう。でも、見せて欲しい。

     

     そういえば、「脂粉(しふん)」ということばがある。

    「おしろい」は 油と白い粉でできているのだろう。iPhoneに入れてある大辞林で「脂粉」をひらくと「紅と白粉」と書かれている。紅は口紅なんだそうだ。

     この句の「膩」にも「脂粉」の「脂」も、にくづきがある・・・だとすれば、この油は動物性なんだろうか。鬢付け油は椿油のはずだが、肌には動物性の油のほうが馴染むのかもしれない。だが、動物性の油とは何を使うんだろうか、豚や牛じゃあるまい。マッコウクジラだの麝香猫なんて名前もあるが・・・疑問は増すばかりだ。


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    「歌舞伎 白塗り」と検索すると、舞台用の化粧品を扱っている三善(みつよし)というのが見つかった。 創業者は、浅草で江戸時代から芝居の化粧品を商ってきた百助(ももすけ)という店の息子だったという。 場所がら 吉原の花魁たちも上得意だったろう。

     

     そこのサイトには化粧の過程が写真入りで書かれている。これによれば、白塗りをする前に固練りの油を手のひらで柔らかくして塗るというのだが、油の素性は明かされていない。

     

     いきなり神楽坂をあたまにもって来たりするこの句を、直接的に過ぎるんじゃないかと はじめは思ったのだが、さまざまな背景を知ると すっかり面白くなってきた。

     

     道ばたの溝を流れる水も ここは坂道だから滞ることがないから、生活排水も おそらく澄んでいたのだろう。

     「清水」とは、そういうことではないか。 雨上がりなら水はもっと澄んでいるかもしれないし 湯上がりでも、澄んだ水が流れただろう。そこに浮かぶ油は化粧の香りを運んでくる。

     ぼくなどは 鬢付け油というと相撲取りをおもいだしてしまうが、化粧をしているときの あるいは化粧を落とした湯上がりのおねえさんが襦袢で鏡台に向かっているのかもしれない・・・清水の季語は夏だ。

     

     しかし、紅葉と書いてあると つい 秋や、そうでなくとも水に浮かぶ緑のもみじの葉が浮かんでは流れて行く。こういう筆名で俳句を詠もうとすると、余計なことも考えなきゃならないんだろう。

     

     こうしてみると、この句の 空間と情景の展開が鮮やかで小気味よい。わずか十七文字で物語りや情景を描き出し読みとらせるのは、うたの約束ごとや 背景となる世界の共通理解が前提にあるからなのだ。

     

     そんなことを考えていると ついついTwitterが思いうかぶ。

    短い文章で何かを伝えるには、背景の共通理解が欠かせないはずだから、Twitterでものごとを伝えるなら、じつは慎重でなければならないはずだ。

     近頃、そこにつけこんで 差別を煽ろうとするような連中がいる。そういう人物は、みずからを信用するに足らないと宣言しているようなものだ。


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