「世界の夢の本屋さんに聞いた素敵な話」

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     世界の夢の本屋さんに聞いた素敵な話/ボブ・エクスタイン 著・イラスト/藤村奈緒美 訳/エクスナレッジ刊

     

     原書:FOOTNOTES* from the WORLD'S  GREATEST BOOKSTORES


     ふた月ほど前に 駒ヶ根の加嶋裕吾さんが、いい本を見つけたといって 書名をメールで教えてくださった。

     本屋についての本だから「かもめブックス」に置いてあるだろうと行ってみたが、在庫がないというので取り寄せを頼んだ。裕吾さんは、鑑識眼を信じている人のひとりだし、まして彼は もともと出版社の営業をしていた人だから、ぼくは実物を確認せずに注文した。

     

     2週間ほど経って、本の届いたことをしらせる電話がかかってきた。

    ここに登場する本屋は、主にアメリカの それもニューヨークが多い。魅力的な本屋と そこに来た客や店の店員にまつわるエピソードを、雑誌「ニューヨーカー」にイラストを描いているボブ・エクスタインが、イラストと文章を書いた おとなのための絵本だ。

     ネットで「the NEW YORKER」を調べてみると、エクスタインによる「BOOK STORES OF NEW YORK」というタイトルの連載がある。その範囲を拡げてこの単行本ができたわけだ。ニューヨークには われわれ外国人でも名前や顔を知っている人々がたくさん住んでいるから、そういう連中がふらりと立ち寄ってエピソードを置いていく機会が多いんだね。

     本のタイトルは「世界中の夢の本屋さんに聞いた素敵な話」、原題の「FOOTNOTES from the WORLD'S GREATEST BOOKSTORES」でも「エピソード」が前に出ているが、この本の中心は「話」ではなくて、本屋という場所である。日本では、単独の本屋ではなく神田の古本屋街を取り上げている。

     

     たとえば、二番目に登場するスクリブナーズ書店は老舗の出版社であって、以前に「天才を編集する」というエントリーにも書いたことがある。

     本社ビルの一階に書店があって、上階は出版社のオフィスとして使われていた。そこにマクスウェル・パーキンズという傑出した編集長がいて フィッツジェラルドやヘミングウェイやトマス・ウルフを育てた。この本に書かれている印象深いエピソードは、映画「ベストセラー」や評伝「名編集者パーキンズ」にも描かれてた。これぐらいの人物が出てくると、作家のフィクションの中にまで世界がひろがってゆく。

     

     社長のスクリブナーズは もともと保守的で生真面目な人物だから、ヘミングウェイの駆使する奔放な文章の ある単語を活字にすることが どうにも許せない。ヘミングウェイと社長と 彼の秘書の、「誰がために鐘は鳴る」をめぐる逸話は、この本の中でもひときわおもしろい。

     

     一枚のイラスト、ひとつのエピソードだけで、ひとつの本屋の世界とそのまちを描き、あるいはまちに対する好奇心をも刺激するんだから、なんてすてきなことだろう。 

     この本のページを読むと、ぼくは MacBookを開いて本屋の名前と都市を打ち込みたくなる。Googleマップを呼び出してストリートビューで そのまちにたどり着くと、ディスプレイの中であたりを歩き回り、空からまちを展望すれば、ぼくたちの世界は海を越えて拡がってゆくのだ。

     

     ありがとうGoogle、こんなことを無料でやらせてくれて・・・と思う。しかし、それでもぼくはAmazonで新しい本を買わない、モノもできるだけAmazonでは買わない。まちの本屋を失くしたくないし、本の実物を見たい、店で店員と話したい。紙の本が好きだ。世界中が、たったひとつの巨大な本屋で独占されるのは、華氏451の世界と同じくらい我慢ならない。

     

     じつは一昨日の夜9時過ぎに、ぼくは「かもめブックス」に行った。神楽坂を登り切ると、定休日でもないし午後10時まで開いているはずなのに シャッターが降りて灯りがない。ぼくはいささか慌てた。いつでも会えると思っていた友人が突然に世を去ったように。古本はさておいて、しばらく前から オレはAmazonで新本を買うことはなかった。でも、もっと本を買いに来ればよかった・・・などと思いつつ坂を下って事務所に戻った。

     

     「営業時間が変わったんじゃありませんか」と言われて、そうかもしれないと 調べてみたら なんのことはない、その通りなんだ。営業時間が午後9時までになったようだ。いやな夢からさめて安堵するように、ぼくは、本屋を大事にしようと思った。


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