「はたらいて笑う」 と 「はたらかせて笑う」

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     JRの中吊り広告の小さな紙面からはみだしそうな 大男の大笑いが大写しになっているのを見て、ぼくは思わず好意的な笑みを浮かべたに違いない。アップルのファンは たいていの人が大好きな、パーソナルコンピュータの産みの親 スティーブ・ウォズニアクだもの。写真の右下にはWozとサインがある。

     

     いちばん下には「はたらいて、笑おう。」というメッセージがある。ウォズの言葉と思わせようとしているのだろう・・・が、それだけでは 何の広告なのか分からないのだが、となりに対として並んでいる高齢だが 生き生きとした表情のきれいな女の人の写真にも同じメッセージがあることで、それが写真の本人の言葉ではないことが分かる。

     小さく「PERSOL」と書かれているロゴがメッセージの発信元らしい。そこで、人材派遣会社の広告なのだろうと感じた。電車は、中吊りの他に壁の広告も、ことごとく同じ二種のポスターで占められていた。

     

     ポスターとしてはおもしろいと思う。しかし、ウォズをこんな広告につかうことを、ぼくは腹立たしく感じた。これをつくった人々は「はたらかせて笑おう」と思っているはずだと感じたからだろう、ぼくは iPhoneを取り出して一枚だけ写真を撮ったが、あとになって それを見ると、前景に吊革を入れて PERSOLの文字を隠していた。

    ClicK

     

     この ウォズの書いた自伝は、原題を「iWoz」というお洒落なタイトルだったようだが、日本語版では「アップルを創った怪物」なんてされしまった。

     Amazonの紹介には こう書かれている・・・「スティーブ・ジョブズとともにアップルを創業した著者。そのプログラマーとしての才能はジョブズも崇拝する一方、経営者となることにまったく興味をしめさない生粋のエンジニア。名誉も地位もお金も求めず、人を喜ばせることしか考えていない規格外の男が、いまはじめて創業の秘話を語る。」

     

     アップルが株式を上場すると、それまで紙切れ同然だったものが急に価値が出る。その前にウォズは、アップルコンピューターをつくるときに関わったが紙切れを持っていなかった友人たちにプレゼントした・・・株券という紙切れを。大天才で 根っからのいいやつなのだ。

     

     それにひきかえ、政府の一員だった時に派遣法をつくったと思ったら、いつのまにか人材派遣会社パソナの会長におさまっていたという厚顔ちゃっかりぶりが 批判を受けながら、平気の平左だった人物がいたことを 忘れられない。

     中吊り広告の写真を Facebookにアップして「こんな人材派遣会社の広告なんかに使いやがってと思って、ぼくはムッとした」と書いたら、人材派遣のテンプスタッフが名前を変えたらしいと五十嵐進さんがコメントを残した。以前に、五十嵐さんは ウォズと遭遇したときのことを自身のブログに書いて、ウォズがやはりいいやつなんだということがよくわかる出来事を伝えた。ウォズが紙切れにローマ字で書いたメッセージと、五十嵐さんと並んで撮った写真を見れば、だれもがそう思うだろう。

     

     「テンプスタッフ」とはテンポラリースタッフを縮めたものだろう、一時的な社員ということだ。原発事故の後始末に命がけの労働をする人たちの給与をピンハネする連中のように、いつでも首を切れる臨時雇用の人材を企業に派遣して その給与の上前をはねるという商売だ。昔の言い方で言えば「口入れ屋」だ。人材を自在に消費できるものとして扱おうという人材派遣会社の本質を隠そうとして、PERSONとかPERSONALあるいはペルソナということばによって「はたらかせて笑う」という本心を隠して、個性やひとりひとりの人格を大切にしようとしていると感じさせようとしている。

     

     その、いかがわしさを隠すために ウォズを担ぎだしたのだ。組織に縛られない自由な天才、文字通りガレージでパーソナルコンピューターをつくりはじめた2人のスティーブのひとり、結果として巨万の富も手にしたヒーローのために、あたかも人材派遣会社が 彼のような人に代わって交渉や仕事の管理をするエイジェントででもあるかのように装っている。

     

     その広告のとなりには、高齢なのに生き生きとしてチャーミングな女の人の笑顔の大写しが対になっている。ぼくは知らなかったが、この人は 85才にしていまだ現役のファッションモデルを続ける人カルメン・デロリフィチェだと、やはりFacebookに書かれた中山るり子さんのコメントで知った。PERSOLのサイトでは、このふたりをICONIK WORKER1と2として紹介している・・・「労働者のアイコン」なんだと・・・

     

     アップルをつくった もうひとりのスティーブ・・・ジョブズは、1984年のスーパーカップでMacintoshのCMを流した。リドリー・スコットの演出でつくられたCMは、IBMを独裁者に Macを隷属する市民の解放者と見立て、独裁者を打倒するというストーリーだ。

     人材派遣会社は、ウォズをiconに据えることで自分たちが独裁者を打倒する解放者だという気分をつくりたいのだろうか。しかし、テンプスタッフという名称は、独裁者に奴隷を供給する奴隷商人であることをみずから宣言していたようなものだ。PERSOLというグループの包装紙でくるみ、スティーブ・ウォズニアクをICONにするだけで、労働者の代理人だと言おうとは、厚かましくはないか。

     

      RERSOLのウェブサイトには、「ICONIK WORKER」 が3人並べられている。ICONIK WORKER3は、PERSOL ONEという名の人工知能である。

     こういうのを見ると、ぼくはダムウェイターという言葉を思い出す。もちろん、調理場から他のフロアに料理を運ぶ小型エレベーターのことだ。これを英語で書くとDumbwaiterとなる。dumbとは「啞」のことだ。つまり「疲れたとも言わずトイレに行きたいとも言わず、不平ひとつ口にすることもなく黙々とひたすら働き続けるウェイター」というわけだ。

    こういうことばをつくったのは、「はたらかせて笑うやつ」に違いない。

     

    ■エピソード関連リンク

    「8年前のこと」/五十嵐進/MADCONNECTION:Wozがいいやつだというエピソード

    iWoz:Wozの自伝「アップルをつくった怪物」の原書/amazon

    2人のスティーブとアイクラーハウスについて伝えられた新しい事実/MyPlace2

    AIよりIA/MyPlace2


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