ふたりのスティーブとアイクラーについて伝えられた新しい事実

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     もう昨年のことだが、APPLEをこの世に送り出した2人のスティーブの生き方を描いた・・・ジョブズの伝記「スティーブ・ジョブズ」とウォズニアクの自伝「iWoz」を読んだとき、ふたりがいずれもアイクラーホームズの住宅で少年時代を送ったことが書かれていたのを興味ぶかく思った。
     ところが先日、新たな事実があることを知って、あらためて興味が湧いてきた。

     ジョブズの伝記「スティーブ・ジョブズ」でぼくは初めて「アイクラーホーム」のことを知り、aki's STOCKTAKINGの古いエントリーにあった「アイクラーホームズ 理想の住まいを探して」という本を読んだ。
     それから数ヶ月経った先日、確認したいことがあってwikipediaを開いた。「アイクラー」は日本ではあまり認知されていないので、日本語版のwikipediaにはないから英語版 wikipediaの「Joseph Eichler」という項目を読み直していたら、ジョブズの伝記が出たころにはなかった記述が書き加えられていたのだ。
     「ウォルター・アイザクソンによるジョブズの伝記に、『アイクラーホーム』で子供時代をすごしたおかげでモダンとシンプルというものについての審美眼を培われたとジョブズ自身が語っている。しかし、Eichler Networkの最近の調査によると、じつはジョブズが子供時代を過ごした家はアイクラー風ではあるが他の業者のつくったミッド・センチュリー・スタイルであることが判明した」という。彼が育った家はアイクラーホームズがつくったものではなく、他の業者がつくったアイクラーもどきだったというわけだ。
     そう言われれば、合点のいくところがある。

     ジョブズの育った家のアドレス「286 Diablo Ave Mountain View, CA 94043」をGoogleMapの航空写真モードで見ると、このあたりはアメリカのおおかたの住宅地とは明らかにちがっている。ウォズニアクの育った家のある通り「Edmonton Ave Sunnyvale, CA 94087」のあたりも、ジョブズの家のあたりと同じようにアトリウムのある平屋の家が並んでまちをつくっている。
     はじめにジョブズの住んだ家を発見したときには胸が高鳴ったが、ストリートビューで見ると代表的なアイクラーの住宅と較べるとちょっとものたりないから、その後の住み手が手を加えて変えてしまったのだろうかと想像した。なにしろジョブズは、アイクラーをかつてのソニーやヒューレットパッカードと並ぶものとして評価しているのだ。
    「アイクラーはすごい。彼の家はおしゃれで安く、よくできている。こぎれいなデザインとシンプルなセンスを低所得の人々にもたらした。優れた機能があれこれと用意されていらのもいい。床暖房とかね。そこにカーペットを敷くと、ほかほかと暖かく、子供にとって最高の床になるんだ」
    同じように、スティーブ・ウォズニアク(ウォズ)も自伝の中で、アイクラーホームズを「アパーミドルの趣味をもちながらロワーミドルの収入で暮らすひとたちのための住宅」だと評価している。

     wikipediaが引用しているEichler Networkのサイトには「Jobs' Likeler No Eichler」(ジョブズの家はアイクラーならぬライクラー)という見出の下に・・・ジョブズの家は、アイクラーの住宅も設計していた建築家が他のディベロパーのために設計したもので、基礎の形式もちがうし床暖房もなく、アイクラーホームではない・・・と、ジョー・アイクラーの息子ネッド・アイクラーが指摘したことを伝えている。
     ジョブズがアイクラーホームで育ったというのは、アイクラーにとっては素敵な話にちがいないから、あえてそれを否定する息子の言葉を疑う理由はない。ウォズニアクの家の方は、たしかにアイクラーホームズがつくったものだという。
     ジョブズが、わざわざ著者アイザクソンを案内して話したというのだから、意図的に事実と違うことを言いはしないだろう。アイクラーホーム一般についてジョブズが語ったことを、著者が誤解したのではないか。伝記の内容に口は出さないというジョブズの妻を通じての約束が守られた証しだといっていいのかもしれない。いずれにしろ、ジョブズが高く評価したのは彼の住んだ家のことというよりは、アイクラーホームの住宅と、そのひとつひとつが集合してつくるまち、それをつくるアイクラーホームズの企業としての姿勢なのだ。

    「Eichler Himes」中身検索へ

    「アイクラーホームズ  理想の住まいを探して」では、ジョー・アイクラーの息子が父の逸話をいくつか語っている。
     たとえば、こんな具合だ・・・アイクラーがアイクラーホームズのまちを見まわっているとき塗装屋が外壁を塗り替えているところに出くわす。
    「これじゃあ周りの家と合わないじゃないか、誰がこの色を決めたんだ」と車を飛び出したアイクラーが噛みつく
    「住んでいる人に言われたんです」と塗装屋は答える。
    「これはおれの家だ、おれの言うとおりにしろ」とアイクラーは言って、ペンキの色を変えさせた。
     アイクラーが作ろうとしていたのは、ひとつひとつの住宅だけではない。そのひとつひとつがが集合してつくりだす「まち」なのだ。もし同じことをナベツネが言えば、権力を誇示するための妄執にすぎないだろうが、アイクラーのエピソードであれば、それはモノつくりへの情熱を示すものだと少なくともぼくには感じられるし、こういう彼の振舞いはジョブズを思い出させるところがある。

     しかし、ジョゼフ・アイクラーは、ただむやみに自己主張が強いだけの男ではないようだ。サンフランシスコやロサンジェルスに11,000戸をこえるアイクラーホームをつくったが、彼は宗教や人種によって客を選別せず、そのために1958年には全国ハウスビルダー協会(National Association of Home Builders)から脱退したという。
     キング牧師が先頭に立って、ハリー・ベラフォンテなどが参加して黒人の自由を求めたワシントン大行進が1963年のことだから、その5年も前、多くの白人は自分たちのまちに黒人の住むことをいやがっていた時代に、人種差別なく住めるというのはむしろ気持ちよいまちであることだと、彼は考えて実行していたのだ。彼はユダヤ系だったようだから、宗教や人種から自由なまちをつくろうとした背景には、それがあったのかもしれない。

     アイクラーは、フランク・ロイド・ライトが1930年代につくったユーソニアンハウスとよばれるスタイルの住宅に傾倒して、アイクラーホームをつくったという。水平の屋根、開放的な空間、室内と外部空間の連続する平屋、床から天井までいっぱいのガラス、平屋・・・これらの大部分はモダニズムの特性にほかならないが、かつてライトはMOMAが開いたモダニズム建築の「インタナショナルスタイル展」への参加を辞退したことがあるように、建築を世界共通のスタイルでつくることを否定し、それぞれの場所にふさわしい住宅をつくろうと考えていた。とりわけ、歴史の浅いアメリカ合衆国という人工的な国と地に根をもつ建築をつくろうとしていた。おそらくアイクラーは、ユーソニアンハウスをカリフォルニアという環境の住宅として読み取り、人種の差別なく快適に生活するまちをつくることが、アメリカがアメリカであるために大切だと考えたのだろう。
     そして、そういうまちにジョブズとウォズの両親が住みたいと思ったことから、ふたりがホームステッド ハイスクールで出会い、APPLEが生まれ、Mac・iPod・iPhone・iPadでぼくたちの生活をおもしろいものにしてくれたのだと、アイクラーに感謝したい。


    コメント
    石原さん
    林愛作邸って駒沢なんだっけ。
    ああいう建築やまちを企業として作り続けたというところを、ジョブズが高く評価したんですね。wikipediaによれば、アイクラーホームズはあまり利益を上げなかったと書いてありますが、利益よりも自分の理想とする住宅やまちをつくることをめざしたのでしょう。さらにあの時代に、黒人にも差別することなく門戸を開いたというところを、ぼくは尊敬します。あのころ、黒人が引っ越してくると、白人はよそのまちに移ってしまうということを聞いていましたから。
    玉井さま ご無沙汰です。そうでしたか、アイクラーもどきですか。でも、あの住宅、あの街を50年代初めにつくっているからすごいね。
    草原住宅といえば、駒沢の林愛作邸もそうですね。
    • ishihara shuichi
    • 2012/06/20 3:42 PM
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