映画「NO」:選挙で 独裁者ピノチェトを退陣させた'88年のチリ市民

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    Click→「NO」公式ウェブサイト


    「チリのピノチェトを選挙で辞めさせた話だから、きっと元気の出る映画だよ」だから、お正月に見るのにむいているはずだとTSUTAYAに行く途中に娘が言った。主演は、モーターサイクルダイアリーズでゲバラを演じたメキシコの俳優ガエル・ガルシア・ベルナルだ。

     1973年に、CIAのあと押しでクーデターを起こしてアジェンデの社会主義政権を倒したピノチェト将軍は大統領の地位について独裁を続け、反対派に対する拷問や虐殺で政権を維持した。
     1988年、それに対する国際的な批判に答えるために、渋々ながら国民投票で信任を問うことになった。ピノチェトを支持するひとは「SI」(YES)を、反対する人は「NO」を投票する。映画のタイトル「NO」がピノチェトに対するNOを意味するのはいうまでもない。

     運動期間は27日間、双方は一日に15分のテレビCMを流すことができる。どうせ できレースだろうという無力感のなかにあって、CMのディレクターとして広告代理店で働く主人公は自分も半信半疑だが「NO」を目指す選挙チームでCMづくりの中心に立たされる・・・
     この映画を見て、ぼくが日本の現状と重ね合わて考えずにはいられなかったのは言うまでもない。
    ぼくたちの国は、制度としてはけっして独裁ではなく民主制のもとにある。しかし、国家をうごかす三つのチカラのうちのひとつである行政を担うにすぎない内閣と官僚は、憲法を勝手に解釈し国会では意見交換をしない。他の二つのチカラを分かち合うはずの制度を軽視して国家を運営する。しかも、国営メディアの会長に気脈を通じた人物を配する。いずれ司法の人事も都合のいいように首をすげ替えるだろう。そうやって三つのチカラを独占してしまうのだ。これは、実質的には独裁にほかならない・・・民主主義という制度の寛容につけこんで独裁を運営しているのだ。

     かつて改憲論者だった憲法学者が 現政権に叛旗をひるがえしたのも、政府が民主主義の基本原則である憲法を無視して、実質的には独裁制を敷こうとしているからだ。憲法を改正するには憲法に則ってしなければならないのだ。現在の首相は、日本が大統領制でないにもかかわらず大統領のように振舞い、民主制にありながら独裁者になりたがる。だとすれば、我々がチリ市民の行動をお手本にすることは、けっして的はずれでも間違いでもない。

     とはいえ、このときのチリと いまの日本の状況の間には、大きな違いが二つある。ひとつは、この映画のチリ市民は野党連合をつくって現在の独裁政府に代わるものを用意したが、日本ではまだそれができていないことだ。それは市民のありかたの違いだが、もうひとつは、制度の違いである。
    チリは大統領制だが、ぼくたちの制度には大統領がいないから、国の政策について「NO」か「YES」を直接に選ぶ大統領選挙のようなことはできない。ひとりひとりの議員が公約に則って政府をうごかすことを期待して それぞれの選挙区で議員を選ぶという回り道をしなければならないのだ。

     気に入らない候補者しかいない選挙区に住む 不運な有権者、気に入らない政党しかない国に住む不幸な国民だと、自身を思っている人も、それじゃあいけないと思っている人も この映画を見ると、我々はどうしたらいいだろうと考え、なんとかしようと元気になる、それにおもしろい・・・と、ぼくは思う。
    決定的な分かれ道を前にしては、多少の党派的相違を乗り越えて連合し、不満足な候補者を選ぶためにでも投票所にいかなきゃならいだろう。


     公式サイトのインタビューで 監督のパブロ・ララインはこう語っている・・・現在のチリも、ひと握りの人間が国の経済を牛耳っている状況にあるから、この映画は、それを なんとかして変えよう と呼びかけるために1980年代末の選挙を題材につくった。この映画の映像は 当時のカメラを使い画面のプロポーションも4:3という幅のせまい形式だが、それは 当時の記録映像と連続して感じさせるためなのだと。
     こうしてチリは 広告とマーケティングによって民主主義を回復したのだが、その広告とマーケティングという方法によって拡大した企業は 今では政府よりも力が強くなって、8~10人の人間が富を握っているのだと言う。チリも、もう一度がんばる必要があるのだとすれば、この映画にかける思いは 我々と共通する。

    あなたも TSUTAYAに行って、この映画のDVDを借りてきてみないか!


    ■関連エントリー
    非暴力革命のすすめ〜ジーン・シャープの提言〜/MyPlace2
    ジーン・シャープのインタビュー/DIAMOND ON LINE

    コメント
    そうですね、たくさんのひとに見てほしい映画ですね。
    そして、元気を出してほしい。
    2年前ぐらいに見た映画ですが、大事な選挙を前にしている今、もう一度この映画の内容を多くの人に知ってもらいたいと思っていたところでした。ご紹介、ありがとうございます。
    • AsianEmi
    • 2016/01/26 1:35 PM
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