「武装解除」

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    「武装解除」/伊勢崎賢治著/講談社現代新書

      武力紛争の現場にあって外国の軍隊を指揮するという 現在の日本では稀有な経歴を持つ人の著書を読んだのは、友人石原秀一さんにメールで薦められたからだ。

     東ティモール、シエラレオネ、アフガニスタンという、激しく凄惨な武力紛争の地で 著者の活動と眼を通して 武力紛争のありさまを知り、現行憲法のもと日本の置かれた状況の中で我々はどうすべきなのかを考えさせる。
     さらに、行政も治安も 国家をつかさどる主体がほぼ失われたところで、それを組み立て直す過程を見るうちに、国家とは何なのかをぼくたちは考える。

     著者伊勢崎賢治は、建築学科の大学院在学中にインドの大学の国費留学生となって、ボンベイ(ムンバイ)のスラムで生活環境の改善にたずさわるが、それにあきたらずインドのNGOの職員としてスラムに住み込んで 内側から住民の市民運動を支援し指導する仕事に就く。その後、国際NGO・Plan Internationalの職員となって西アフリカのシエラレオネに派遣され 現地事務所 所長となると、豊富な資金もあって なかば行政府の長のような立場で多くの公共事業を行い、ケニヤ、エチオピアにも赴任して10年間を過ごした。

     一時帰国して数年後、国連の主導する暫定統治機構の一員となって日本から派遣され インドネシアから独立する東チモールの、国家としての基本的な骨格づくりをおこなった。本人は県知事のような立場と言うが、読んでいるとむしろ かつてのマッカーサーに近いかもしれない。規模は小さいが、旧行政府がなくなり憲法すらいまだつくられていない国で、武装解除から軍隊まで含めた秩序を作り上げるのだから。
     かつて国際NGOの一員として派遣されて移動したあとに内戦が 激化して酸鼻を極めたシエラレオネを、アメリカが強引に停戦に持ち込んだとき、そして 9.11に対する報復のあとアメリカがアフガニスタンの暫定政権をつくったとき、伊勢崎は武装解除を指揮した。だから 軍隊を指揮下に置いたとはいえ、敵を殺すための戦闘で指揮をとったわけではない。非武装の軍隊を指揮したのだ。
     国連などが介在して武力紛争を終わらせるには3つの段階を経る。まず、双方の当事者を武装解除(Disarmament)させ、つぎに指揮系統を解消させる動員解除(Dimobilization)を行い、3つ目に 復員後の仕事を用意して社会に戻らせる社会再統合(Reintegration)・・・この過程をDDRと言う。シエラレオネでは国連の組織を率いて、アフガニスタンには日本が主導することになったDDRの責任者として、シビリアンとして非武装の軍を指揮する立場に立ったのである。

     この本を読み進めながら 著者の考え方や行動の大部分に共感しつつも、ぼくは、著者は日本の憲法9条をどうすべきだと結論づけるのかということに関心と心配を持ち続けた。
     なにしろ、それまで殺し合いを続けてきた集団に戦いをやめさせるために両者の武器を取り上げ兵役を解除しようというのだ。和平を仲介する組織は、非武装であるにしてもその背景に武力を持たずには目的を成し遂げることはできない。たとえば、子供たちを連れ去って平然と人を殺す兵士に育て、中には 妊婦の腹を生きたまま切り裂いて胎児の男女をあてることを賭けにするというような相手側にしてみれば復讐心をたぎらせずにいられないような集団に 武器を捨てさせるのだ。

     日本がイラクで担ったのが後方支援という形式であろうと、それは戦場において兵站という軍事行動によって、戦闘の一方の側に立つことにほかならない。しかし、みずからは武装せずに、対立と憎悪が いまだにくすぶる状態で戦闘の当事者のあいだに入って和平を進めるという行動は、殺し合いの一方の当事者になることではないから、それこそ憲法9条を持つ日本の「軍隊」が担うにふさわしい役割だと考著者は考える。
     だから、かつては日本国憲法の一部を修正することで自衛隊の行動を規定しておくべきだと考えていたようだが、その後 政治家の現状認識の誤りや身勝手な憲法解釈に出会ったによって考えを改め、著者は この本をつぎのような文章で終えている。

    「現在の政治状況、日本の外交能力、大本営化したジャーナリズムをはじめ日本全体としての『軍の平和利用』を観た場合、憲法 特に第九条には、愚かな政治判断へのブレーキの機能を期待するしかないのではないか。
    日本の浮遊世論が改憲にむいている時だから、敢えて言う。
    現在の日本国憲法の前文と第九条は、一句一文たりとも変えてはならない。」

     この本が書かれたのは2004年10月。その後に東北地震と福島原発の崩壊がありながら、政府はオリンピックを招致し原発の再稼働を進め 秘密保護法をつくり、集団的自衛権を認めた。彼らは、目指すべき世界像もなく 継承しまもるべき国家像は「戦争のできる、豊かな経済力をもつ国」という以外は何もたないまま、原発を輸出し 武器輸出制限をゆるめて目の前の経済的な利益を選ぼうとする。
    現在、伊勢崎は憲法をどう考えているのだろうかという疑問に対し、下記のインタビューはその一部に答えてくれるだろう。

    ■関連リンク
    Wikipedia/伊勢崎賢治
    インタビュー:魂の仕事人:武装解除人 その一〜その四
    「日本人は人を殺しに行くのか 戦場からの集団的自衛権入門 」/朝日新書2014年(いま現在ぼくはまだ読んでいないが興味津々です)

     

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