ドキュメンタリー映画「スープとイデオロギー」

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     「スープとイデオロギー」を観た。

     重くて根の深いテーマを取り上げながらユーモアを交えて描写してきたヤン ヨンヒは、常に自身の家族を題材にした。父、姪、兄、につづいて、母を中心にした このドキュメンタリーで家族の顔ぶれが揃うことになる。

     できごとや環境のきびしさにもかかわらず この人の作った映画は あと味が悪くないのは、底流に家族への愛情が感じられるからだろう。

     

     監督のヤン ヨンヒ(梁英姫)は、2012年の「かぞくのくに」で、作品がキネマ旬報ベストテン1位になり、安藤サクラが主演女優賞をもらった。 

     3番目の兄が北朝鮮から病気治療で帰国するが、 監視がつきまとい 行動に干渉することに妹は強く反発する。監督自身の体験を妹の視点で描いた劇映画の前に、2本のドキュメンタリーを作っている。

     

     彼女は、大阪 鶴橋のコリアン コミュニティで生まれ育った。父は 末っ子の娘をのぞき三人の息子をすべて、帰国事業で北朝鮮に渡らせた。

     かつて 読売新聞が、大々的に金日成の唱える「主体(チュチェ)思想」を讃える記事を見開きで掲載したことを、ぼくは記憶しているが、日朝の政府がそれぞれの思惑のもとに主導した「理想の国づくり」を信じて息子たちを手放し、現実には 彼らを辛い状況に置くことになってしまった父に対して ヨンヒは抑え難い反発をかかえながらも、両親との間には愛情が通っている。

     

     理想とは かけ離れた独裁体制となった国に対して、なぜ 父は忠誠心を持続できるのか、なぜ 母は 父に同調しつづけるのかという疑問と反発を力に換えて、これまで映画によって自身の家族を描き続けたのだろう。
     「あれはやってはいけない」と、カメラの前で拉致問題をポロリと語った1週間のちに,父は脳梗塞で倒れたという。
     父が目指していた国のかたちは違うものだったことを、娘は最後に知って納得したのだろう。
     

    ETV特集「長すぎた入院 精神医療・知られざる実態」

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       先週末の夜おそく、もう寝ようとしていたとき、自宅のハードディスクに「ETV特集・長すぎた入院」という番組が残されているのに気づいた。

       冒頭だけのつもりで見はじめたが やめられなくなって 1時間のドキュメンタリーを最後まで見てしまった。

      ぼくたちの国でまたひとつ、かくも理不尽なことが行われていることに対する腹立たしさが、 眠気をすっかり吹き飛ばした。

       

       冒頭から登場する主人公 「時男さん」は、39年間も精神病院に入院させられて 退院することができなかった。歩くことも話すことも考えることも、ひとの気持ちを推し量り思いやることもできるおだやかな人が、意志に反して病院から出してもらえなかった。

       

       しかし、そこは 福島第一原発の近くに5つあった精神病院のひとつだった。

       原発から5km圏内にあったために、患者たちは病院を出て避難することになった。転院先の病院で診察をうけたところ、時男さんのいた病院の患者40人のうち、2人を除き 他の患者は入院の必要がない、むしろ家庭に帰って生活する方がいいのだと医師が説明する。

       

       長いあいだ 願っていた退院が、思いがけない事故によって実現した。時男さんは、「オレの、これまでの39年をどうしてくれるんだ」と言ってかつて入院させられていた病院の医師の胸ぐらをつかんで殴り飛ばすくらいの権利はあるがそんなことはしない。

       彼は、ひとびとの責任を追及するよりも、40年ぶりに戻った自由を 胸に深く吸い込み、自動販売機で切符を買うことや、ATMをつかうこと カラオケで歌うことによって それを実感するのだが、それでも退院できなかった理由を探そうとする。


      「知日」

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         ある時代までの何千年ものあいだ、日本の文化文明は、中国で生まれたものはもとより ヨーロッパやインド発祥のものさえ ことごとく中国と朝鮮から入って来た。
         ヨーロッパの人間が直接に持って来た鉄砲とキリスト教が、人を殺す武器と愛を説く宗教という、人と人のかかわりかたの両極だけが わずかな例外だったのは、きわめて象徴的なことかもしれない。
        日本は このふたつをブックエンドにして、その間にさまざまな近・現代の蔵書を並べていったわけだ。

         ふたつ前のエントリーで、BS1のドキュメンタリー番組「わたしたちが日本を好きな理由」について書いたが、そのドキュメンタリーを見て 「知日」という中国の雑誌がどのようにつくられているのか、中国でどのように読まれているのか、それが中国人の日本観をどう変えているかをぼくは知った。
         しかし、この雑誌をぼくが 初めて知ったのは小野寺光子さんのブログ「ONE DAY」のエントリーで 中国の雑誌「知日」(その1)(その2)を読んだときのことだ。

         そこには、彼女の一週間の食事と「知日」に掲載された顛末と内容が たくさんの写真とともに詳しく書かれている。日付を見ると2014年、もう2年前のことだ。雑誌社は どうやって彼女のことを知ったのか、小野寺さんが知日の編集者にメールを送ってたずねたところ、以前に 雑誌「ku:nel」に掲載された同じような記事を読んでいたからだという。彼らは雑誌もブログもよく読んでいるのだ。

         ぼくの先日のエントリーを読んで、小野寺さんが件の「知日」の実物を送ってくださった。「料理の魂」と題する号で、「小野寺家的七日餐」というタイトルで小野田さんのお宅の 春節(旧正月)前の一週間の献立が紹介されている。一冊をまるごと開いて、写真を見ながら 「同文」とはいえなくなった漢字をポツリポツリと拾い読みすると、「知日」の全体像を知ることができた。

         この号の構成については、小野寺さんがブログで すこぶる丁寧に書いていらっしゃるから、わざわざ繰り返す必要がないほどだから、そこに跳んでONE DAYを読んでください。日本の料理の年表や懐石料理の老舗から小山薫堂や「孤独のグルメ」まで、さまざまな切り口をデザインにも全力投球で日本料理を紹介している。
        送ってくださった知日を読んでいるうちに、「知日」の登場は 何千年の日中文化交流として画期的なできごとなのではないかという気がしてきた。

        BS1スペシャル 「私たちが日本を好きな理由〜中国・変わり始めた対日観」

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          BS1スペシャル 「私たちが日本を好きな理由〜中国・変わり始めた対日観〜」

           
           3月5日に放映された この番組の「わたしたちが日本を好きな理由」というタイトルを見ると、安倍ー籾井ラインの日本万歳という内容だと思いかねないが、じつは中国敵視のいまの日本政府とは逆の立場に立っている。
           日本に対する見方が肯定的な中国人が増えていることを伝えるだけでなく、「アジアでもっとも立憲民主主義が成熟している国家である日本を政府が変えようとしているが国民の良識を信じたい」と語る中国の著作者のインタビューもある。日本の姿勢や 広い国際交流のありかたを考える上で、とてもいいドキュメンタリーだ。 

           3月11日(金)午前10時00分〜午前10時50分に再放送がある。(仕事の場にいる人が多い時間でしょうから、録画予約をお忘れなく)。冒頭をみそこねたので ぼくも録画予約しつつ再放送を心待ちしている。

           このドキュメンタリーが伝えるところでは、中国人の対日観を変えつつある大きな要因は2つある。ひとつは、中国から日本に来る人たちが増えて、直接に日本人や商品や文化にふれる機会が増えていること。もうひとつは、雑誌「知日」が さまざまな角度から日本について積極的に紹介していることだ。


          曾野綾子のコラム「労働力不足と移民」の原文を読む

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            click →全文をひらく

             曾野綾子のコラムがアパルトヘイトを肯定するような主張をしていると批判にさらされている。

             曾野綾子と産経新聞という組み合わせとはいえ、罵倒するような物言いのコメントにはいささかうんざりして、まずはコラムの原文を読みたいと思ったが、どういうわけか ネット上では記事の一部分をぼかした写真や斜めに撮った読みにくい写真をのせているものしかみつからない。
            そこで、図書館で2月11日の産経新聞朝刊を読んで写真に撮った。左上の部分写真をクリックすると全文を読むことができます。

             その要旨は・・・介護など、日本の労働力不足を解消するには、外国人労働者の移民を認めるべきだ。しかし、居住を共にすることは難しいから、住むところだけは分けるべきだ・・・という。そこにアパルトヘイト廃止後の南アフリカで共生がうまくいっていない実例を引きあいに出しているのだから、どうみてもアパルトヘイトを肯定していると思わざるをえない。

             この日の産経新聞朝刊は、一面のトップが 日本軍が南京に入城したときには城内には人間がほとんどいなかったのだから、虐殺などできるはずもないと主張する元兵士の発言をとりあげた記事だ。2月11日は建国記念日だったから特別に気合いが入っていたのだろうが、南アフリカではマンデラが長い投獄生活から解放された記念すべき日でもあるそうだ。

            「少女は自転車に乗って」と「もうひとりの息子」

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               昨夜でギンレイホールの上映が終わってしまったが、イスラムの世界をいずれも女性の監督が描いたこの2本は、それぞれに興味深く面白く見せて気持ちよく終わりながら、さまざまな問題を考えさせずにおかない。

               「少女は自転車に乗って」は、女性の自由がきびしく制限されるサウジアラビアにありながら、自転車を手に入れて街を走りたいという思いで頭が一杯の少女の物語。「もうひとりの息子」は、ふたりの若者が、誕生時に病院で取り違えられていた ことが判明して、その家族とそれぞれの社会環境の中で みずからが何者であるかを、改めて問い直さねばならなくなるという物語だ。しかも、ふたりの国はイスラエルとパレスティナ。利害が対立するなどというものではなく、一方の存在を肯定すれば他方は否定せざるを得ないと、少なくとも根底では考えられている2つの国家なのだ。
               
               いずれも、自分が何者であるかを確立する物語であると同時に、おのれを包む環境とたたかいながら、それとどのように関わるかを模索する物語でもある。「わたしは何者か」という問いは、「世界とは何か」という問いと対極にあるようだが、じつはすこぶる近くにある。

              「青春の柳宗悦」

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                 しばらく前から、「夕刊フジ」の一面には韓国や中国に対する否定的な あるいは挑発的な記事が毎日のようにトップ記事として掲載されている。その頻度と取り上げる姿勢はマスメディアとして正気とは思えないほどなので、駅の売店に並べられた新聞の大きな文字を目にすると、ぼくはいつも腹立たしく情けない思いを抑えきれない。

                 それが大部分の人が見向きもしない極端なナショナリズムの新聞とされているなら、我々の社会は、さまざまな意見を許容するほど自由であることの証しとでも思うが、首都圏のかなり多くの人々が仕事帰りに読む新聞だから、これにはむしろ自由の危機を感じるのだ。

                 しかし、日本が現在よりもはるかに強くナショナリズムにつき動かされ隣国を併合し戦争をつづけていた時代にありながら、柳宗悦は朝鮮の美術・工芸の価値をひろく理解させようとして、日本で朝鮮であらゆる手をつくした。この本の副題が「失われようとする光化門のために」であるのは、当時の日本が朝鮮総督府の庁舎を王宮前につくり王宮の正門である光化門を取り壊そうと計画していたのを、柳が論陣を張って押しとどめたことを指している。

                テルマエ・ロマエ

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                   「テルマエ・ロマエ」という映画がすごく面白かったと聞いていたし、階下のギンレイホールでも上映された。にもかかわらず僕が見そこねたのは、日本人が古代ローマ人の衣装をつけて出てくるというのを気恥ずかしいと感じたからだろう。

                   ところが先日、原作者のヤマザキマリと中村勘九郎の対談を見ると、ヤマザキというひとはやりたいこと言いたいことが体中にみなぎって どうにも押さえきれないほどだから、対する勘九郎は押しまくられて土俵伝いに逃げまわるといったぐあいだったので、俄然 このひとに興味が湧いた。さっそく図書館で借りたエッセイ「テルマエ戦記」を読んだ。


                   シングルマザーとしてイタリアで出産した息子、10歳以上も年下の歴史学者であるイタリア人の夫、そしてシリアの街で拾った猫という複雑な家族構成でポルトガルに住んでいる。それだけで波瀾万丈の日々が想像されるが、40歳代で書いたテルマエ・ロマエの大ヒットのおかげで、売れない漫画家から締め切りに追われ睡眠不足に陥る人気漫画家に躍り出て、さらにあちらこちらを動きまくってしまうおのれの姿を笑いのタネに爆笑哄笑をひきおこす。

                   当然ながら、つぎにテルマエ・ロマエの原作を読みたくなったが図書館には漫画なんて所蔵しているはずもない。さりとて、買いそろえると高いからAmazonのマーケットプレイスを探した。

                   鵯巻から鶩巻までの「非常に良い」という状態の本が1円であったから、さっそく注文した。1冊ごとの送料250円を含めても5冊で1,255円也。この安さ感をそこないたくなくて、鶲巻はあとで注文することにした。それもいまはもう注文してあるから明日あたり届く。少々高いといっても、送料とも281円なのだが。


                  「メキシカン・スーツケース」

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                     新宿のシネマカリテで、ドキュメンタリー映画「メキシカン・スーツケース」を見た。
                    またしても最終日になってしまったが、21:00上映開始のレイトショーにしては なかなか多くの観客がいるではないか。
                     
                     2007年、ロバート・キャパの弟 コーネルが70年近いあいだ行方を捜していた4,500枚の写真のネガフィルムがメキシコで見つかった。キャパとゲルダ・タローデヴィッド・シーモアが撮ったスペイン内戦の写真だった。この映画の大部分は、ネガと同じように 内戦後にスペインからメキシコへ亡命した人たちのインタビューと写真で構成され、3人の写真家が命を賭けてどのようにして戦場で写真を撮ったかを伝えることからはじめる。とりわけ、おそらく初めての女性戦場写真家ゲルダは、文字通り命とひきかえに撮った写真だった。共和国軍の戦車の暴走に巻き込まれて死んだゲルダの、病院のベッドで最期をむかえた様子を見て、僕はなぜかすこし安堵した。キャタピラに踏みにじられたところなど想像もしたくなかったのだ。

                     インタビューは、フィルムがメキシコにたどり着くまでの足跡を追いながら内戦のあとに国境のピレネー山脈を越えた共和国派のひとびとの日々を掘り起こしてゆく。インタビューに応える人たちはその過酷な時を生き抜いて、いまメキシコにいる。
                     沖縄でおびただしい砲撃と死を身をもって知った人たちや、広島・長崎で友人や家族を殺されたひとびとがそうであったように、スペイン内戦を経験してメキシコに渡った人たちは、残された時間も少なくなった今日まで、内戦についてほとんど語ることがなかったという。それだけに、カメラに向かって打ち明ける つらい過去とモノクロの写真は、ぼくたちを内戦のスペインの荒れ果てた街に連れて行く力をもっている。

                    平成中村座で法界坊

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                       平成中村座で「法界坊」:「隅田川続俤」(すみだがわごにちのおもかげ)を観た。
                       一昨年は相撲、今年は歌舞伎と、いずれもつよい興味と関心がありながら行ったことがなかったものを初めて観る機会に恵まれた。 平成中村座は、隅田川のほとり待乳山聖天(まつちやましょうでん)と道をはさんだ向かい、野球場と体育館の狭間につくられている。  12年前に勘三郎がまだ勘九郎だったころ小屋掛けの平成中村座をここに立ち上げたのは中村座にゆかりの土地だったからだし、そのときの演し物にこの芝居を選んで、法界坊のなりで浅草の町に出没したのだそうだが、それというのも主人公がこの界隈の住人であるからで、ぼくにとって初めての歌舞伎がこの場所でこの演し物だったのはなんとも幸運なことだった。そのうえ、頃は桜がそろそろおわろうとしているから花びらが風を染めて道にも敷き詰められている。

                       ここは隅田川から吉原へとつづく谷中堀が始まるところだが、多くの掘割がそうであるように今では堀は土の下に埋葬されている。待乳山聖天は、舟に揺られて遊里をめざした男たちが隅田川をのぼるときの目標にしていたところだと容易に想像がふくらむが、この芝居の最後の場面三囲(みめぐり)土手の背景の絵は、川向こうから平成中村座のあたりを見た隅田川べりで、桜並木の爛漫のむこうの小高いところに待乳山聖天があって、その脇の橋の下には山谷堀があるという仕掛け。芝居も小屋のまわりもすっかりひとつながりなのだ。
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